親夫さんは、海岸公園や貞山堀、蒲生干潟など、震災前の仙台沿岸部の風景を30年以上に渡り撮り続けてきました。
この中に南蒲生地区の写真もあり、震災前の家並みや居久根の風景が写るそれらは、今でも貴重な記録資料になっています。
今回は「復興大地」として、震災からの復旧・復興の過程が切り取られます。
震災後、京都造形大大学院の写真コースに入学し在学中に2年かけて撮ったもので、卒業制作に位置づけたものだそうです。(卒業の段で受賞されたとのこと)
「大地」と題する通り、復旧作業過程で表皮が剥がれた農地の様子が目立つ。 工事作業が始まる前の早朝に撮影したものがほとんどとか。 |
ご本人からいただいた、卒業制作発表時の原稿の中から一部をご紹介します。
海水の底に沈んだ沿岸部の、農地の上を覆っていた大量の破壊物が取り除かれても、生産の命脈が断ち切られて、耕地は野の地へと戻っていった。野生化した広大な大地の表土は何度も剥ぎ取られる。幾多の野生の植物は季節がくると塩分がしみ込んだ土から芽を出し、大地を覆い成長するが、やがて薬剤によってその成長は絶たれる。
この地で働く人たちは土地の線を整え、あるいは新たな線で区画し、その傷口にたっぷりと養分の入った腐葉土を施し、灌漑設備を改修して淡水で塩分を洗い流し、再びこの大地を飼いならすための準備をしている。この光景は、、震災で傷ついた沿岸部農地を再び人間の手に取り戻すための広大な手術をしているように見える。
(中略)
この場所に幾度となく佇むと、野生化した大地を家畜化するには、直線が必要なのではないかと思えてくる。それほど、人間が作業しているこの場所は直線だらけである。農地の大規模化への区画整理事業によって、それまでの道路や水路やあぜ道は白紙にされ、新たな未来への直線が計画されて、新しい田園風景がつくり出される。水稲栽培の必然性が生み出す水平大地の上で、このような復興作業がいたるところで続いている。
私は考える。震災の復旧・復興は真新しい直線を生み出す作業ではないのか。そして、人間の活動そのものが直線を作り出す行為であり、私たちはそれと共に生きるということではないのかと。人間の手に取り戻された大地は、やがて時間と共に普通の田園風景へと戻っていく。
「飼いならす」という表現にハッとさせられ、「野生化」「家畜化」に仙台平野の成り立ちが、まさに凝縮されていると気付きます。
主観を極力排し、淡々と撮られた写真の数々。
工事などの現場記録写真から、風景や面影を残し継ぐためのアーカイブ的写真、
そしてその延長線上にそれがさらに進化した今回の作品の数々が位置しているのではないかと勝手ながら推測しています。
高橋親夫さん |
展示会場の様子 |
編集中の写真集(表紙) |
仙台にお住まいの方やお近くの方は是非足をお運び下さい。
※夏の終わり頃には、写真集(英訳も進行中とのこと)も発売になるとのことですよ。
■高橋親夫写真展 「復興大地〜仙台沿岸部再生〜」
2015年6月3日(水)~6月16日(火)(日曜祝日休館)
9:30~18:00(最終日は15時まで)
ニコンプラザ仙台 フォトギャラリー
宮城県仙台市青葉区中央1-3-1 AER(アエル)ビル29F
022-715-1490
入場無料
http://www.nikon-image.com/support/showroom/sendai/schedule.html